士業経営の新時代 第1回 トリプルグッド税理士法人・実島誠氏に聞く(前編) 今秋『士業ITアドバイザー協会』を立ち上げた“クラウド化の旗手”

顧問先数1400社超。毎月30件超のペースで増客し、事務所規模も100名を超えた。日本で有数の大規模事務所のひとつであり、業界の最先端を走るトリプルグッド税理士法人の実島誠氏が、今感じていることは何か――。それは「危機感」だ。今回、設立した『一般社団法人士業ITアドバイザー協会』も、その危機感が契機になっているのは間違いない。実島氏は「マネーフォワードやfreeeのようなクラウドサービスが普及し、記帳代行や税務申告を顧客が自力でできるようになったら、我々会計事務所はいらなくなってしまう」と言う。今回の取材で感じたのは、ほんの半年前にはまだ現実感を伴わなかった話が、すでに目前まで迫っていたという感覚。「それらのクラウドサービスの企業が、税理士を下請けにして税務相談や税務申告サービスを提供すれば、それで終わる」(同氏)それはまさに一歩手前。すでにそこまで状況は変化している。
第 23 号   2014年11月 掲載

士業とクラウドサービスの関係

―先生はクラウドサービスについてどのようにお考えですか?

例えば、『マネーフォワード』や『freee』のような会計を「自動化」するクラウドサービスを提供している会社は、まだサービスのリリースから2年も経っていませんが、すでに十数万人以上のユーザーを抱えています。

私は過去の「自計化」が進展した時代を現場で体感した人間ですが、クラウド会計は今までの会計ソフトと比べると感覚的には5倍以上のスピードで普及しています。既存の会計ソフトベンダーもすでに対岸の火事と静観できる状況にはなく、急ピッチでクラウド化を進め、クラウドや自動化対応の商品をリリースしています。

欧米では、すでにクラウドであることが当たり前。クラウドの利便性やコストからしても、好むと好まざるとに係わらず、クラウド化が急速に進むのは自明のことです。

しかし、まだ多くの会計人は、クラウドを単なるソフトウェアのひとつだと考えています。これからは、会計・請求・給与・経費精算などのバックオフィス系だけでなく、顧客管理やストレージなどあらゆる経営リソースがクラウド化します。つまりクラウドは、これからの時代の経営基盤となるのです。これらの経営基盤を会計事務所が提案・提供することができれば、顧客満足につながるだけでなく、顧問契約も解除されにくくなるでしょう。

トリプルグッド税理士法人代表の実島氏(写真左)。さらには、それらのあらゆる経営情報を元にして、サービスを提供することが可能になるのです。簡単な例では、クラウド会計のデータを元に決算書や税務申告書を作成するサービスができます。いちいちお客様に依頼しなくても、預金や借入金、請求書や在庫、給与などの情報に数クリックでアクセスできたら、いかに効率よくサービスが提供できるか。それは容易に想像できると思います。

リアルタイムにあらゆる経営情報にアクセスできる。これらの情報を活用すれば、本当に多様なアウトソーシングやアドバイザリーサービスが提供できます。もちろん、情報へのアクセスについては顧客の許可が必要になりますが。

国内のクラウドソーシングの市場規模は、今年度の予測は391億円ですが、3年後の2017年には3倍以上の1473億円になると見られています。これからはますますそうしたサービスが増えてくるでしょう。士業事務所もクラウド上の経営情報を活用して、さらにクラウド上でサービスを提供するという考えが重要になってくると思います。

―しかし、現時点ではまだ、そこまで進んでいないですよね。

はい、しかしこれらは既に見えている動きです。私たちはクラウドサービスの利用価値は非常に高いと思っており、実際に社内では10年以上も前から積極的にクラウドサービスを活用して生産性を高めています。また会計だけでなく、『Google Apps』や『チャットワーク』などのクラウドサービスの導入を顧問先などに勧めています。ただ中小企業一般には、まだまだクラウドサービスは普及していないですね。

クラウドサービスが普及していない理由

―クラウドサービスが中小企業に普及しないのはなぜでしょうか?

それにはいくつか理由があります。ひとつはサービスの価格が非常に安価であり、代理店営業や対面営業の方法では採算が合わないため、自分でサービスを探すことができない中小企業には広がりにくいということです。

例えばGoogle Appsであれば、1アカウントで年額たったの6千円ですから、十名の企業に導入しても代理店報酬はせいぜい1~2万円といったところでしょう。価格が安いために、代理店、直販にかかわらず、ユーザーを一社一社訪ねて対面販売することができないのです。

トリプルグッド税理士法人(大阪府大阪市)

それに加えて、ほとんどの中小企業でITリテラシーが伴わず、自社でクラウドサービスの導入ができないのが現状です。これも大きな原因です。弊社の顧問先は1400社を超えますが、自社でクラウドサービスを導入できるのは、システム開発やネットショップなどITに強い一部の企業だけです。クラウドサービスを導入するには、自分でサービスを探して、比較、検討して評価をする必要がありますから、ある程度のITリテラシーが必要なのです。わかりやすく簡単になっているとはいえ、導入に大きな壁があるのは事実です。

従来のITソリューションは、ソフトとハードをセットで販売していました。それがクラウドになると、ハードを選ばずソフトもブラウザまたはアプリで動きます。クラウドサービス会社はソフトウェアとデータをネット上に置いているだけです。

メーカー側はコスト面がネックとなり対面営業ができませんし、中小企業側は自身ではサービスを導入することができません。こうしたミスマッチが重なって、クラウドサービスの普及が進まないのです。


トリプルグッド税理士法人(大阪府大阪市)

1997年開業。代表・実島誠。グループに税理士、社労士、弁護士、司法書士、行政書士を抱えるワンストップの戦略ファームを構築。顧問先のマーケティング支援も行うなど、提供サービスの幅を広げ、現在顧問先数は1400社を超える。さらに月40件に迫るペースで新規獲得を行っている。

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シリーズ士業経営の新時代

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